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第3話

last update Last Updated: 2025-02-07 09:25:10

なんで?どういうこと!?

だけど、こっちがパニック状態であるのをいい事に、イケメンのキスの長いこと。怒った私がイケメンの体を叩くと、まるで「仕方ねぇなぁ」と言わんばかりの顔で離れていった。

もちろん私は酸欠。

ハァハァって肩で息をする私を見て、イケメンがニヤリと笑う。

「まだまだ。続きは帰ってから、だろ?」

「はい……」

あぁ、ダメだ。酸欠で上手く頭が働かない。というか、なんなの、この人。しかも人生初のファーストキスが〝外で〟なんて!草葉の陰から見守ってくれてるお母さんに、何て報告したらいいのか。

「(いや、お母さんはただ失踪しただけだ……)」

あぁダメだ、パニックで頭が働かない。実の母を勝手に昇天させるなんて、相当どうかしてる。ってか、チャラ男がいつの間にかいない。あの人、逃げたな!

反対に、人のファーストキスを奪ったイケメンは、未だに私を抱きしめている。どうしよう、逃げ場なしだ。

「あぁ……もう好きにしてください」

家が焼け、ファーストキスが奪われたパニックに加え、極限まで減ったお腹。これ以上、もう何も考えられない。

だんだんと、体の力が抜けていく。腕の中でぐったりしていく私を見て、さすがのイケメンも慌てた声を上げた。

「え、マジで? おい、お前!」

薄れゆく意識の中、ふと聞こえてきたのは音楽。男の子たちが、元気な声で歌っている。

あぁ、本当に勘弁してほしいよ。だって私は、アイドルが嫌いなんだから――

その言葉を口にしたか、していないか。それはハッキリと覚えていない。だけど意識を手放す中。

「好きにしてください、なんて……。冗談でも言うんじゃねぇよ」

私の唇を強引に奪ったイケメンが弱々しく喋り、切ない声を出した。そして最後に、とびきり優しく私を抱きしめる。

「(あったかい……)」

完璧に意識を失う前の、ささいな一時。困惑しながらも私は、その温もりを確かに感じ取っていた。

「……ん?」

長い時間眠っていた気がする。

というか、ここはどこ?

自分の家じゃない事は分かる。だって燃えて、消し炭になったもん。

「(じゃあ、ここは……?)」

綺麗な部屋。私が寝ていたベッドも、大きくてフカフカ。壁も天井も家具も、全部高級そうで、全部白い。たった一つだけ色があるのは、赤い時計。オシャレな壁掛け時計だ。それは白の部屋に、かなり目立っている。

「センスが良いのか悪いのか。って、そうじゃなくて」

本当に、ここはどこ? 誰の家?

寝る直前に感じた「温かさ」。じんわりと私を包んだ、カイロみたいな安心感――なんて、そんなことを思っていたけど。目を覚ましたら〝知らない部屋にいた〟なんて、安心感どころか不安感しかない。

「とりあえず、出てみようか」

背の高いベッドを降りて、足音を立てないように、少しだけドアを開く。すると――

「悪い子だな、お前」

「ひっ!」

ビックリした。だって開いたドアの先に〝誰かの目と口〟があったんだもん!悲鳴が出た私の前で、扉が大きく開く。現れたのは……

――続きは帰ってから。な?

あのイケメンキス男だった。

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    こういうこと、皇羽さんに聞きたいよ。直接「どういう事ですか?」って聞いてみたい。私に対する皇羽さんの思いを聞いたら、ソワソワした私の心も少しは落ちつく気がするから。「だけど家にいないんだから、聞きようがないよね」気になった事を放置するのは性に合わないんだけどな――と。ここで何気なくテーブルに転がる物を見る。そういえば、この前からずっと転がっている。どこかで見たような。何だっけ?もしや皇羽さんの物?と、少しワクワクしながら手に取る。目に入ったのは「バイト」という文字。そこでスゴイ速さで記憶が戻って来た。「これ、私が貰って来たバイトの情報誌だ!」なにが「気になったことを放置するのは性に合わない」だ。思いっきり放置している物があるじゃん!クウちゃんにコンサートのチケット代を返さないといけないし、皇羽さんには言わずもがな色々買ってもらってるし、そして玲央さんにも!仮病でウチにいた日にお金を借りている!私、かなりの人に借金しているヤバい人だよ! 「バ、バイト!バイトしなきゃ!時給の高いバイト~!!」再びリビングに戻り、ペンを片手にハイスピードで情報誌をめくる。自分に合いそうな求人を見つけ、片っ端から丸をしていった。「スマホがあって良かった!スグに電話ができる!」皇羽さんのことで憂う余裕は一気になくなり、情報誌とスマホを行ったり来たりと大忙し。気になるバイトはいくつかあったけど、夜遅くまでの勤務だったり、保護者の同意が必要だったりと。様々なことが原因で自ずと絞られていった。「これが最後の一件だ!」意を決して電話をかける。そのお店の採用方法は「電話で軽い面接をする」だった。つまり電話が繋がった瞬間から選考が始まるってこと!ガチャと音がして、男の人の声がする。私は頭が真っ白になりながらも、一生懸命受け答えをした。すると……「明日から?本当ですか、ありがとうございますッ!」結果は、なんと採用!明日、一応履歴書を持ってお店へ行き、そのまま働くことになった。「何とかバイトを見つける事が出来たよ~……」良かった、まずは一安心だ!スマホをテーブルに置いて、ほぅ~と脱力する。あ、皇羽さんに「バイト決まりました」って報告した方がいいよね?皇羽さんが帰ってきた時に私が家にいなかったら、絶対に心配するし。「メールで言うのもいいけど、直接いいたいなぁ」バイ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第51話

    『え⁉』「え⁉」私と司会者の反応が同じだったことはさておき。ニコリと笑うレオを、他のメンバーさえも驚いた顔で見ている。あの黒髪の人は〝かげろう〟って名前だったかな?あの人だけは無表情。だけどその他のメンバーは、これでもかと目を見開いている。『ちょ!またまた爆弾発言だよレオくん!じゃあズバリ聞いちゃおうかな⁉そのお相手とは⁉』興奮する司会者の隣で、焦った様子のリーダー・ミヤビが「まぁまぁその辺で」と穏便に済ませようとしている。だけどミヤビの努力もむなしく、愛想よく笑うレオがパカッと口を開いた。『それはですね、ウチに住み着いている野良猫です!』 『は……はは。なーんだ、野良猫かぁ~』明らかに残念そうな司会者と、やや顔に青線が入ったミヤビ。しかし当の本人はというと「驚きました?」って、悪気なしにケラケラと笑っている。これには、さすがの私もミヤビに同情しちゃう。『すみません司会者さん、ウチのレオはヤンチャなもので、ははは』「……ははは」つられて乾いた笑いが出る。無意味にドキドキしちゃった。口から心臓が出るかと思ったよ。「と言っても、私が焦る必要なんて全くないんだけどね……」だけど今日のレオがやたらと皇羽さんに見えて、変にドキドキしちゃう。告白の件以来、自分のペースを狂わされっぱなしだ。「でも野良猫の話なら良かったよ。これで安心してテレビを見られる……ん?」そう言えば――と、いつか玲央さんと話したことを思い出す。 ――野良猫? ――そ、萌々ちゃんのこと ということは、さっきレオが言った「野良猫」って……。「つまり私の事だ!じゃあレオは〝私に必要とされたい〟と思っているの?な、なんでぇ?」顔を青くしたり赤くしたり。オロオロと一人で百面相をする私に、レオは容赦なかった。まるで「私が混乱している事はお見通し」と言わんばかりに、一瞬だけカメラへ目を向ける。そして―― 『今、家で俺の事を見てくれていたら、帰ってたくさんヨシヨシしてあげるからね』 「!!」名前を呼ばれたわけじゃないのに、いきなり名指しされたかのような勢いのあるストライク。その破壊力の大きさに、バックンバックンと心臓が唸り始める。ここまで言われて、気が付かない私じゃない。そんな表情で言われて、分からない私じゃない。いま画面越しに目が合った人。その正体に、やっと気づいた

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第50話

    だからね、クウちゃん。「私、レオのうちわが作れて良かったよ」「萌々……!!」口からぽろりと出た私の言葉に、クウちゃんは感激のあまり泣いてしまう。もしかして私が思っているよりも、クウちゃんは「推しのことを話せない寂しさ」を感じていたのかもしれない。「クウちゃん。これからは、もっとレオの話をしていいからね!」「も、萌々ぉ……」クウちゃんは涙を拭きながら「ありがとう」と、たった今作ったうちわを振った。彼女の喜びが全身で伝わって来る。だから私も「へへ」と、つられて笑ってしまった。まさか Ign:s の話をしている時に、自分が笑う日が来るなんて――クウちゃんとの仲が深まったし、 Ign:s の耐性がついて良かったな。騙されて嫌な気分になったけど、皇羽さんには感謝だね。「じゃあ萌々、お昼休みも残り三分となったところで。私の〝レオ愛〟を語らせて頂きます」「へ?」「まずはオーディションの時のレオなんだけど、もうすっごく緊張して可愛くてね!」「ははは……」乾いた笑いは漏れたけど、話を聞くのは嫌じゃなかった。前よりも Ign:s に慣れたというのもあるけど、私の知らなかった皇羽さんの話を聞いているようで……むしろ少しだけ嬉しくなっちゃう。まさかレオが緊張していたなんて。今の二人を見る限り想像つかない。皇羽さんはレオをする時、今でも緊張したりするのかな?もしもコンサートで皇羽さんが出てきてスゴク緊張していたら、その時こそうちわを使おう。せっかくクウちゃんと作った物だし、コンサートに向けて全力で頑張っている皇羽さんを知っているからこそ応援したい。「……なんて。スッカリと毒されちゃって、私ったら」熱弁していたクウちゃんが「ちょっとお水休憩」とお茶を飲む間、私も自分へ風を送る。火照った頬が、クウちゃんに気付かれそうだ。そうしたら私、根掘り葉掘り喋っちゃいそう。……いや、言いたいよ。もういっそ全てのことをクウちゃんに話したい。だけどレオを推しているクウちゃんだからこそ「実はレオは美形の双子で成り立っていて」なんて説明したら、泡を吹いて倒れかねない。「まだまだ言えそうにないな……」「萌々、何か言った?」私は「ううん」と首を横へ振る。遠くの席にある皇羽さんの席は当たり前だけど空っぽで、今この時間も練習を頑張っているだろう彼のことを少しだけ考えた。◇バタ

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第49話

    ◇翌朝。しかけたアラームが、耳の横でけたたましく鳴っている。どっぷりと夢の中にいた私は、重たい瞼をなんとか開けた。「朝……」目を開いて瞬きをした、その瞬間に思い出す。――萌々、大好きだ昨日、私に二度目の告白をした皇羽さんを思い出す。あの皇羽さんの顔が、寝ても覚めても忘れられない。「……皇羽さんがいなくて良かった」鏡を見ると、たるんだ顔の私と目が合う。なんという顔だ。こんな顔、絶対に皇羽さんには見せられない!自分にため息をついていると、部屋に誰の気配もないことに気付いた。隣へ目をやると皇羽さんはおらず、昨日と同じくもぬけの殻。今日も早くからコンサートの練習かな?「まさか夜通し居なかった?いやいや。確かに夜、皇羽さんの気配を感じたもん」昨日、告白の後。皇羽さんは「そういうことだから」と、戸締りをしっかりするよう私に強く言い、再び練習に戻った。残された私は寝るまで皇羽さんの告白を脳内で繰り返し、いつ寝たか覚えていないくらいの〝上の空ぶり〟。だけどふと夜中に目覚めると、隣で皇羽さんの温もりを感じた。いつ一緒のベッドで寝るようになったか分からないけど、これも慣れだろうか。「いるんだ」と思ったら安心して、無意識のうちに皇羽さんへ体を寄せる。すると、すかさず腕を回された。心の中で「温かいけど重たいなぁ」と唸っていると、フッと小さな笑い声が横から聞こえた。あの時、皇羽さんは起きていたんだろうか。ベッドに入っていながら寝ていなかったのかな?まさか寝る前に私の顔を眺めていた?……って、自意識過剰すぎか。何にしろ、皇羽さんが帰ってきていたことは確かだ。「だけど一緒に住んでいるのに全然会わないっていうのも変な話だよね」一応、皇羽さんは家に帰って来ている。だけど如何せん滞在時間が短いから、しばらく皇羽さんを見ていない気分になる。今日の帰りも遅いのかな?「コンサートまであと五日。長いなぁ、早く終わらないかな。終わるまで、ずっと皇羽さんがいないじゃん」……ん?無意識に出た言葉に「私ったら何を言っているの」と一人ツッコミをいれる。だって今の言葉は「皇羽さんがいなくて寂しい」と言っているようなもの。「ないない、ない。寂しくない。大丈夫」まるで呪文のようにぶつくさ言いながら寝室を後にする。リビングに出ると視界の端で皇羽さんの部屋が目に入った。途端に、昨日の

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第48話

    背中から温かな体温が伝わる。そして耳元で聞こえる、聞き慣れた声。それは「今日は夜10時まで帰らない」と私に置手紙をした人のもの。「皇羽さん、ですね……?」 「ん、ただいま」後ろからハグをされる。皇羽さんの大きな手が、私の体を包み込む。「なんで、今日は遅いって……」 「抜けて来た、またすぐ戻る」 「え……」いったい何のために帰って来たんだろう?忘れ物かな?不思議そうに振り返る私を見て、皇羽さんは不機嫌に眉を寄せる。「どっかのネコがちゃんと帰ってきたか確認しに来たんだけど、まさか泥棒ネコがいるとはな」「ネコって、また私をネコ呼ばわりですか!……だけどコッソリ部屋に入った私が悪いですよね、すみません。引き出しも勝手に開けようとしました。ごめんなさい。鍵がかかっていると、どうしても気になってしまって……つい出来心で開けようとしました」まさかどこかの犯人みたいなセリフを言う日が来るなんて。だけど悪いことをしたのは私だから、皇羽さんの腕の中で体の向きを変える。彼の目を見ながら謝罪した。だけど皇羽さんは泥棒ネコの私を怒るばかりか、ぎゅっと抱きしめる力を強くした。「そんなことはいいんだ」と、私の肩にオデコを置きながら。「萌々が今日ここに帰ってきてくれるか心配で、いてもたってもいられなかった。だから様子を見に来たんだ」 「え、そんなことで?」「そんなこと?じゃあ萌々は、昨日俺が無理やりキスしたことを許してくれるのかよ。レオの代役を隠していたことを許してくれるのかよ」「そ、それは……」そうか、皇羽さんは私が怒っていると思っているんだ。だから学校に行ったまま私が帰って来ないと思ったんだ。確かに昨日「新しい家を探します」って宣言しちゃったもんね。「私だって怒りたいですよ、色々と悲しかったし」「……うん」「でも……」何も言わなくなった私を、僅かに潤んだ瞳で皇羽さんは見つめた。私だって、本当は皇羽さんを怒りたい。私にウソをついてきたことやキスしたことを怒りたい。だけど、こんな弱った顔をされたら怒るに怒れなくなってしまう。「~っ」やっぱり皇羽さんはズルい。あなたを前にすると、私の気持ちはちょっとだけカヤの外へ行っちゃって、目の前にいるあなたへ必死になってしまう。ヒドイことをされたのは私なのに、それなのに……。私を拾ってくれたこと学校に行けるようにし

  • アイドルの秘密は溺愛のあとで   第47話

    部屋に入ってビックリ。なんとココは一面ガラス張り!しかも部屋に入った途端、何の音もしなくなった。静かすぎて怖いくらいだ。「まるで防音室みたい」病院で聴力検査をした時、こういう部屋に通された。重たくて頑丈な扉、中に入った途端に包まれる静寂――この部屋と瓜二つだ。試しに音楽をかけてみようか?もしココが防音室なら、いくら爆音で曲を流しても外からは聞こえないはずだから。「ミュージックスタート……わ、うるさ!」スマホを最大音量にして曲を流す。爆音に耐えきれなくて、スマホを置いて部屋の外へ出た。するとやっぱり何も聞こえない。少しでも重たい扉を開けると、とんでもない音で曲が流れているというのに。ということは、やっぱりココは防音室なんだ。「そういえば皇羽さんが学校に休みの連絡をしてくれた時、全く声が聞こえなかったなぁ」 ――連絡しといたからな――早!皇羽さんと私の学校、二校へ電話をしたんですよね?話し声が全く聞こえませんでしたよ⁉――ちゃんとしたっての。それに、この部屋の中の音が聞こえるわけないだろ。この部屋は…… あの時ははぐらかされたけど、きっと「この部屋は防音だから中の声が聞こえるわけない」って言いたかったんだ。あの時の私は、皇羽さんがレオをしていると知らなかった。それなのに部屋が防音室だと知ったら、私が怪しむに決まっている。だから皇羽さんは内緒にしていたんだ。部屋に入らせないようにしていた。自分がレオをしていると、少しでも私に悟られないため。「この部屋は練習部屋ってことか」机上にはタブレットが一つ置いてある。パスコードは設定されていないらしく、手が当たっただけで画面が開いた。慌てて閉じようとすると、曲が流れ始める。歌いながら踊る Ign:s が、画面いっぱいに写った。「ずっと練習していたんだ。何も知らなかった」部屋が防音なのは歌の練習のため。一面鏡張りなのはダンスの練習のため。そこまでして玲央さんの代わりを務めているなんて……。皇羽さんが健気すぎて切ない。ここまでして相手に尽くす理由は、玲央さんが双子の兄弟だから?だけど、もし私に妹か姉がいたとして……ここまで身を粉にして動ける?うぅーん、自信が無いよ。「ん?机に紙が散らばっている。書かれているのは Ign:s が出演した番組名?箇条書きだ。うわ、長いレシートみたい。一体いくつあるんだ

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